歯科のX線検査で受ける放射線について
目次
歯科のX線検査における放射線量と、安全への配慮
歯科のX線検査では、歯や歯を支える骨など、診察だけでは分からない情報を確認します。
一方、X線という言葉から、放射線による身体への影響を心配される方もいらっしゃると思います。
この記事では、歯科で用いる主なX線検査の放射線量と、検査によって得られる情報、放射線防護の考え方についてご説明します。
なお、当院では防護エプロンを一律には使用していません。その理由については、別の記事で詳しくご説明しています。
撮影によって受ける放射線の量はどのくらい?
1枚の口内法X線撮影による実効線量は、一般的に約1〜8μSvです。撮影する部位やX線を当てる方向、装置、撮影条件によって異なります。
パノラマX線撮影1回の実効線量は、一般的に約4〜30μSvとされています。
実効線量とは、臓器による放射線の影響の受けやすさの違いを考慮し、身体全体への影響を比べるために計算される値です。
一人ひとりの被ばくや健康への影響を正確に表す数値ではありませんが、異なる検査の放射線量を比べる目安として用いられます。
CBCTの線量は、装置や撮影する範囲、撮影条件によって変わります。当院の装置によるCBCT撮影は、文献に示された区分に当てはめると、おおむね50μSv以下です。
これらを、航空機での移動や医科で行われるX線検査、日常生活で受ける自然放射線などと比較すると、次のようになります。
| 検査・行動 | 実効線量の目安 |
|---|---|
| 口内法X線撮影1枚 | 約1〜8μSv |
| パノラマX線撮影1回 | 約4〜30μSv |
| 当院で行うCBCT撮影 | おおむね50μSv以下 |
| 胸部X線撮影1回 | 約60〜100μSv |
| 東京―ニューヨーク間を航空機で往復 | 約110〜160μSv |
| マンモグラフィ | 約280μSv |
| 頭部CT | 約1,600μSv |
| 自然放射線による1年間の被ばく(日本平均) | 約2,100μSv |
このように、歯科のX線撮影で受ける放射線量は、一般的な医科の画像検査と比べても少ない範囲であり、日常生活で受けている自然放射線と比べても、決して多いものではありません。
※上記は、文献に示された代表的な実効線量の目安です。実際の線量は、装置、撮影範囲、撮影条件、体格などによって異なります。また、実効線量は異なる検査などを比較するための計算上の指標であり、個人の被ばくや健康への影響を直接表すものではありません。
妊娠中、または妊娠の可能性がある方へ
妊娠中、または妊娠している可能性がある方は、撮影前にお知らせください。
歯科のX線撮影では、腹部や骨盤が直接の照射範囲に入ることは通常ありません。
国際原子力機関(IAEA)では、口内法、パノラマ、CBCTなどを含む歯科X線検査によって胎児が受ける線量は、約0.009〜7.97μSvと推定されています。撮影方法や条件によって異なりますが、いずれも非常に少ない線量です。
そのため、妊娠中であることだけを理由に、診断や治療に必要なX線検査を行えないわけではありません。
ただし、急いで撮影する必要がない場合には、撮影時期を変更できることもあります。検査によって得られる情報と、撮影を延期した場合の影響を考え、一人ひとりの状況に応じて判断します。
放射線の影響には、2つの考え方があります
放射線による身体への影響は、大きく「組織反応」と「確率的影響」に分けて考えられます。
この違いは、「貯金」と「宝くじ」にたとえるとイメージしやすくなります。
組織反応は「貯金」のようなもの
組織反応は、従来「確定的影響」と呼ばれていたもので、皮膚障害、脱毛、白内障などが含まれます。
これは、貯金が一定の金額に達して初めて何かを買えるように、放射線量が一定の値を超えた場合に現れる可能性がある影響です。反対に、その値より十分に低い線量では起こりません。
歯科のX線検査で使われる放射線量は、組織反応が生じる線量と比べて、はるかに少ない範囲です。そのため、通常の歯科X線検査によって、皮膚障害や脱毛などが起こる心配はありません。
なお、このたとえは「一定の線量を超えると現れる」という仕組みを説明するためのものです。過去に受けたX線検査の線量が、実際の貯金のように身体へ永久にたまり続けるという意味ではありません。
確率的影響は「宝くじ」のようなもの
確率的影響とは、主に将来のがんなどの可能性についての考え方です。
こちらは、一定の線量を超えると急に起こるものではありません。宝くじは買う枚数が増えるほど当たる可能性が高くなりますが、たくさん買ったからといって必ず当たるわけではありません。
それと同じように、放射線防護では、受ける線量が増えるほど確率的影響の可能性も少しずつ増えると考えます。
ただし、歯科X線検査は、いわば「当たる可能性が非常に低い宝くじを、ごく少ない枚数だけ持つ」ような線量です。実際には、個人ごとの影響を確認したり、正確なリスクを計算したりできるほど大きなものではありません。
また、放射線による長期的な影響は、一般に若い年齢で受けるほど慎重に考える必要があり、被ばくした年齢が高くなるほど、リスクは小さくなる傾向があります。
そのため、特に子どもや若い方では撮影の必要性や範囲を慎重に判断します。一方、中年以降の方が歯科で通常行われる検査について、放射線による影響を過度に心配する必要はありません。
放射線を避けることだけが、健康を守ることではありません
もちろん、必要のないX線撮影や、同じような撮影を不必要に繰り返すことは避けなければなりません。
しかし、放射線を心配するあまり、診断に必要な検査まで避けてしまうと、病気の発見が遅れたり、適切な治療方法を選べなかったりする可能性があります。
検査によって得られる情報と、撮影によるごく小さなリスクを比べ、診断や治療に役立つと判断される場合に、必要な範囲を適切な条件で撮影することが大切です。
歯科X線検査による非常に小さな影響だけを避けようとするよりも、必要な検査を受け、病気を正しく診断し、適切な治療によってお口の健康を保つことの方が、全体として大きな利益につながります。
必要な検査を、必要な範囲で行います
当院では、診察結果や以前の画像を確認しながら、
- 本当に必要な撮影かを判断する
- 同じような撮影の不必要な繰り返しを避ける
- 確認したい内容に合った撮影方法を選ぶ
- X線を当てる範囲を必要な部分に絞る
- 患者さんの体格などに合わせて撮影条件を調整する
- 正しく位置づけし、撮り直しを減らす
- CBCTは、立体的な情報が診断や治療方法の選択に必要な場合に限る
といった対応を行っています。
線量が少ないから無条件に撮影するのでも、放射線を使用するから一律に避けるのでもありません。
その時点で検査が必要かを判断し、必要な情報をできるだけ少ない放射線量で得ることが、歯科治療における放射線防護の基本です。
当院から高次医療機関などへご紹介する場合、紹介先で改めてX線検査やCT検査が必要になると予想されるときには、当院での撮影をあえて行わず、紹介先で必要な範囲の精密検査を受けていただくこともあります。
検査の重複を避け、全体として撮影回数をできるだけ少なくするための対応です。
